坂の上の雲」を読み終わりました.あとがきと解説からいろいろ抜粋.

    • 町工場のように小さい国家の中で,スタッフ達は世帯が小さいがために思う存分はたらき,そのチームをつよくするというただひとつの目的にむかってすすみ,その目的をうたがうことすら知らなかった.この時代のあかるさは,こういうオプティミズムからきているのであろう.このながい物語は,その日本史上類のない幸福な楽天家たちの物語である.やがてかれらは日露戦争というとほうもない大仕事に無我夢中でくびをつっこんでゆく.このつまり百姓国家がもったこっけいなほどに楽天的な連中は,そのような時代人としての体質で,前をのみ見つめながらあるく.のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶(いちだ)の白い雲がかがやいているとすれば,それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう.
    • 明治十年代から日露戦争にいたる明治のオプティミズムはたしかに特異な歴史をつくりえたが,しかしどの歴史時代の精神も三十年以上はつづきがたいように,やがて終息期をむかえざるをえない.どうやらその終末期は日露戦争の勝利とともにやってきたようである.
    • 日本は財政も頼りなく,兵力もとぼしい.ことに陸軍では兵資も十分にととのっていたとは言いがたい.しかし大戦略はちゃんと立っていて,前線の将兵も背後の国民もこの大方針を体していた.負けたら国は滅びるぞ!その覚悟のほどはすさまじいい.闘魂という点では,近代史に無類の熱狂性をもっていた.
    • ああその戦死たち!それにまた国策に対し従順に命を奉じた可憐な国民たち!
    • ロシアはみずからにまけ,日本はそのすぐれた計画性と敵軍の事情のためにきわどい勝利をひろいつづけた.戦後の日本は,この相対関係を国民に教えようとせず,国民もそれを知ろうとはしなかった.むしろ勝利を絶対化し,日本軍の神秘的強さを信仰するようになり,その部分において民族的に痴呆化した.日露戦争を境にして日本人の国民的理性が大きく後退して狂躁の昭和期に入る.敗戦が国民に理性をあたえい,勝利が国民を狂気にするとすれば,長い民族の歴史からみれば,戦争の勝敗などというものはまことに不可思議なものである.
    • 精神主義と規律主義は無能者にとって絶好の隠れ蓑である.

最後だけ,趣が違いますが,自分への戒めとして.
付け加え.トップに立つ人間は運がよくなくてはならない.